《MUMEI》
4
「で?結局のところどうなの?恋神様とは」
翌日、朝食時
パンを片手に味噌汁という合いそうにない取り合わせで食べ始めた三原
その突飛過ぎる質問に、口に含んだばかりの味噌汁をつい吹き出しそうになっていた
何とか堪えソレを飲み込むと、妹の方を睨むように見やる
「……朝から何の質問してんだよ、お前は」
「だって、気になるんだもん。で?どうなのよ!?」
興味心身といった視線を向けられ、三原は僅かばかり困った様な顔を浮かべてしまう
どうかと問われて、どう返せばいいのか
そしてその事以上に、昨日の安堂の泣き顔が気に掛ってならなかった
「……俺、もう出るわ」
「え、もう!?ちょっと、お兄ちゃん!?」
「片付け、頼んだ。じゃぁな」
残りを口の中へと押し込むと、三原は素早く身を翻し
妹の止める声にも耳を貸さず、取り敢えず三原は家を出た
だが出社するにはまだ早く、仕方無くコンビニで時間をつぶそうと歩き始める
途中、恋神神社の前を通り、三原は脚を止めた
何気なく石階段を登ってみれば、そこは人気がなく閑散としていて
安堂も未だ寝ているのだろう、本当に静かだった
「三原さん。お早う御座います」
「!?」
人気がないと油断した矢先の背後からの声
流石の三原も驚き、弾かれた様にそちらへと向き直れば
安堂の祖父が其処に立っていた
「驚かせてしまいましたかな。申し訳ない」
「い、いえ。こっちこそ、すいません」
派手に驚いてしまい、礼を失したと思ったのか頭を下げる
祖父は気に抱える事無く緩く首を横へと振って見せると
だが突然、表情をこわばらせた
「……三原さん。少しばかりお話を聞いていただく時間はありますかな?」
「……?」
何かあったのかを問うてみれば
祖父はもともと小声だった声を更に細くし
聞かれては拙い話なのか、三原を手招いた
「……アレの母親が昨日の夕方、突然に儂を訪ねて来ましてな」
「アレ、と言うと稔さんのですか?」
「そうです。今の今まで放っておいて今更何をしに来たのかと問うてやったんです。そうしたら……」
「?」
どうしたのか、言いにくそうに口籠る祖父
続きを促す事をしてもいいものかを三原が迷う事をしていると
漸くまた口を開いた
「……アレを、引き取りたいと言うて来ましてな」
「そう、なんですか」
「突然の事であれも随分と応用してしまって」
宥めるのに苦労した、と困った様子の祖父
もし、その母親と一緒に暮らす様になったとしたら安堂は今までどおりに笑えるだろうか
あの時泣いてしまった様に常に寂しい思いをするのではないだろうか
様々な考えが、三原の頭を巡る
他人の家庭事情になど深く立ち入るべきでない事は解っている、それでも
もし、それを安堂自身は望んでいないとしたら
自分は果たしてどう動くべきなのか、今は皆目見当もつかない
その答えを求めるかの様に祖父の方を見やれば
「あれがいま一番に欲しがっているのは恐らく、あなたの言葉なのでしょうな」
「……俺の、ですか?」
「ええ。三原さん、アレの事、どうかよろしくお願いします」
ソレでは、と軽く頭を下げ祖父はその場を後にした
その祖父と入れ違うかの様に、目を覚ましたらしい安堂が社務所から出てくる
「悪い。うるさかったか?」
自分たちの話す声で起こしてしまったらしい事を気遣ってやれば
安堂はゆるり首を横へと振ってみせるそして徐に三原の服の袖を引きながら、聞いてほしい事があるとの一言
まだ時間には余裕がある事を確認し、頷いて返してやれば
安堂は肩を撫で下し、石階段へと腰を降ろした
その横へと三原も腰を下ろしてやりながら、安堂の話を待ってやる
「……昨日、母と久しぶりに会ったんです」
話し始めた安堂
三原は多くを返してやる事はせず、短く相槌を打ってやった
「……お母さん、突然私と一緒に暮らしたいって。でも、私……」
今更どう接していいのかを、安堂は悩んでいる様で
膝を深く駆け込み、そこに顔を伏せてしまった
酷く暗い顔を浮かべてしまう安堂
三原は何を思ったのか、その腕を引き膝の上へと向かい合わせに座らせてやる
「……今、お前がどうしたいか、ちゃんと伝えてみろ。そしたら、大丈夫なんじゃないのか?」

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