《MUMEI》
陽菜の過去
「あたしも、眞季と一緒で、ずっと虐められてきた…自分で望んでしたことなんかない、男の人が、怖かった」

アパートの裏で聞いた声を、思い出した。
怒鳴り声、笑い声と…陽菜の泣き叫ぶ声。

「あたしが大切だと思ってたのは、眞季だけだよ…眞季だけは違うって思ってた」

心臓の脈打つ速度が、速くなる。
それを整えるように、深く深呼吸をしてから、僕は言った。

「…真鍋は…?」

一瞬の沈黙のあと、陽菜がゆっくりと言葉にしていった。

「…先輩は…好きだった…好きだと思ってた…でも違うの…やっぱり先輩でも、あたしは、迫られたら怖いって感じると思う…」

「僕が相手でも陽菜はずっと怯えてたよ?僕とキスしても真鍋のときみたいに嬉そうにしてくれなかった…僕には真鍋に見せるみたいな笑顔で笑ってくれない…」

「でも眞季にしか見せてないことの方が多いよ?この話だって眞季だけ…あたしは男の人が怖かったから、だから、誰としても抵抗するのはきっと一緒だよ…」

陽菜が何を言いたいのか、理解できない。
僕は特別なのに、抵抗するのは他の男と一緒…?

「あたしが、どんなに抵抗したって、あたしの中に入ってきてくれるのは眞季だけだよ?初めて体温感じたのも眞季だけ」

陽菜の手が、僕の髪を撫でた。

「眞季が見た男の人たちは、あたしの体で遊んだけど…体温を感じさせるようなことはしてない…」

あぁ…、なんとなく理解できた。
陽菜は昔、玩具で虐められてきたのか…。
僕が、たまに見掛けた高校生くらいの男たちは、陽菜の体を玩具にしてたんだ…。


そして、その中には中年のオヤジもいて、陽菜は僕がそれを知ってると思ってるんだ…。

「今も続いてるの?」

陽菜が首を振った。

「…こんなに泣いたの久し振りだった…もう、あんな思いはしないって思ってたし、あたしもみんなみたいに普通になれると思ってた」

陽菜が僕を、きつく抱いた。

「眞季に辛い思いさせておいて自分は普通になれるなんて可笑しいよね…怒って当たり前だよね…」

「……陽菜…」

「眞季の言う通りだよ…あたしは…気持ち良くなるのが…怖い…」

陽菜は震えた声で、そう言った。

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