《MUMEI》

その事に異を唱える事をしない事を指摘してやれば
雪舟は若干手荒く桜井の頭を掻き乱しながら
更には口元に僅かばかりの笑みを浮かべて見せる
「……ま、いいんじゃないのか?」
言いながら不意に腰を屈めたかと思えば
脚元に落ちていたらしい何かを拾い上げる
「……ひまわり、手を出せ」
「?」
何なのかと思いながらも手を出して見れば
小さく渦を巻いていた手の上のソレが、まるで弾けるかの様に消えた
「消え、ちゃった」
「流石はひまわり。大したものだな」
その現象に珍しく顔を綻ばせる雪舟
一体ないが起こった二のか解らないままの桜井を他所に
他の三人もどうしてか嬉し気な顔だった
「な、何?何が起きたの?」
訳が分かる筈もなく、四人へと聞いて返せば
だが誰一人として答えて返す事はなく
それどころか、柔らかな笑みを携えた雨月がその華奢に見える腕で桜井を軽々と横抱きにしていた
「う、雨月!?」
「行きましょうか。歩さん」
有無を言わさず、雨月は桜井を抱えたまま土を蹴りつける
高く高く飛んで上がり、その二人を他の三人もまた追うて
遥か眼下に街が見えるまでに高く昇りそこで止まった
「また、来たんだ。本当、邪魔」
心底嫌そうな相手
天気の欠片であるピースがその周りに渦を巻いていて
その事を雨月へと耳打ってみれば
「成程。それを正確に組む事ができれば何とかなるかもしれませんね」
「で、でもすごい量なんだけど……」
「成せばなる、ですよ。歩さん」
「……頑張って、みる」
ソレが自分にしか見えないのだから自身が頑張るしかない、と
欠片へと指先を触れさせてみた、次の瞬間
その部分のパーツ達が弾ける様な音を立て、おのずから組み立って行く
「成程、ひまわりが触れると自然に組み合わさる仕組みですか」
「そう、みたい。これなら出来そうかも」
「幸い、あちらの方は他の三人が気を引いてくれているようですしね」
「だ、大丈夫なの!?」
「死にはしないと思うので大丈夫ですよ」
相変わらず穏やかな笑みを浮かべたままの雪舟
「それよりも、私達はこちらに集中するとしましょう」
ね、と微笑を向けられてしまえばそれ以上ないを返す事も出来なくなり
桜井はつい頷いて返していた
「じゃ、しっかり掴まってて下さいね」
「え?」
「ちょっと、移動しますから」
言ううや否や、風を斬る様に進み始める雨月
瞬きをする間もなく、周り一面、天気のパーツに囲まれていた
桜井は当然に驚き、引き攣った様な声を上げてしまう
「そんなに恐がらないで。私が付いてます」
「で、でもこれ多すぎだよ」
「そう、ですね。全てを一つにまとめる事が出来ればいんですが……」
「どうにかできないの?」
「そう、ですね……」
ふむ、と顎に指をかけ悩む事を始める雨月
そして良案でも思い付いたのか、手を一度打つと
「ひまわり。何事も大切なのは根気と根性ですよ」
風体に似合わ体育体育会系のソレに
桜井は瞬間あっけにとられだが向けられる雨月の笑み撒け、深く溜息をつく
言ってやりたい文句は山ほどある
だが今は
「こうなったら、自棄だ〜!!」
「その意気ですよ。じゃ、行きます」
「行ってよーし!!」
言葉通りにやけを起こし、その中心へと突っ込むよう指を差す
その先には台風の姿
よもや桜井が正面突破を選択するとは思っていなかったのか
それまで優越に緩ませていた顔を引きつらせながら
慌てふためき、そして逃げる事を始めた
「逃げるんじゃないわよ!この悪ガキ!」
背を向け逃げる事を始める台風へ
桜井は徐には居ていた靴を片方脱ぐと
ソレを台風目がけて投げつけていた
見事台風の顔面にそれは直撃し、痛みにその場へ蹲る
来たその好きを、利用しない手はない
「つっかまえたァ!」
「!?」
雨月の腕から飛び出し、台風へと向かって飛んで掛る
更に予想外の行動を取った桜井に
体風だけでなく、雨月でさえも驚いてしまう
「あ、歩さん。なんて無茶を……!」
「だって!根気と根性が大切だって言ったの雨月じゃない!」
「確かに言いはしましたが……!」
「ほら!早く!この子捕まえないとでしょ!」

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