《MUMEI》
密会
 
 
 
──…翌朝、

あんなに暴れた翌日なのに、僕は陽菜が家を出る時間の30分前に、目を覚ました。
正確には、目を覚ましたというより、気付いた感じだったが。


僕は急いで支度をして、陽菜の家の前に行った。




7時半になると、陽菜が家を出て来た。

「おはよ」

「…おは…よ…」

僕に気付いた陽菜は、驚いた顔をしてから、引きつった笑みを浮かべた。

「どうしてそんな驚いた顔するの?昔みたいに一緒に学校行こうよ」

「…うん」

ひょっとしたら、陽菜は学校を休むんじゃないか、そう思ったけど家の前で待ってて良かった。


学校に着くまでの間、陽菜は明らかに警戒した表情で、僕の隣にいた。

「じゃあ、また帰りにね」

学校に着いてから、そう言うと陽菜は無理矢理作ったような笑顔で、手を振って教室に入って行った。


その日僕は、休み時間の度に陽菜の様子を、見に行った。
陽菜は少し無理してる感じだったけど、クラスメイトと話したり、いつも通りに過ごしていた。


けど昼休みに、陽菜を迎えに行くと異変が起きた。

「ねぇ、今森さんは?」

教室に陽菜の姿が見当たらず、僕は陽菜のクラスメイトに聞いた。

「あぁ、陽菜なら彼氏に呼ばれてどっか行ったよ」

真鍋か…。

「どこ行ったかわかる?」

「えー、どこだろ…裏庭とか屋上じゃない?」

「わかった、ありがとう」

そう言って僕は、陽菜を捜しに行った。
屋上、裏庭に行ったけど陽菜の姿は見当たらなくて、学校の外に連れて行かれたんじゃないかと心配したけど、体育館と体育倉庫を捜した辺りから心配が、だんだん怒りに変わっていく。


自由になった途端、真鍋に会いに行くなんて…。
今日だって僕が迎えに行かなかったら、陽菜は朝から真鍋に会いに行ってたのかも知れない。


そんなことを考えながら、体育館裏に行くと陽菜と真鍋の姿を見付けた。

「陽菜ー!」

呼ばれて振り向いた陽菜は、僕に気付くと顔を強張らせた。

「も〜、捜したんだよぉ?」

陽菜が俯く。

「なにしてたの?」

「あ、友達?」

真鍋が気まずそうな顔で、言った。

「はい、えーと…もしかして…陽菜の彼氏…ですか?」

「え?…あ、うん…いや、振られたんだけど」

真鍋は頭を掻きながら、苦笑した。
その爽やかな男を演じる素振りに、腹が立つ。

「やっぱり……。陽菜…はっきり言わないから」

「…どういうこと?」

「…いえ、これは内緒だから…ね?陽菜」

陽菜は黙ったまま、俯いている。

「…陽菜ちゃん…大丈夫?なんかすごい震えてるけど…」

心配した真鍋が陽菜の顔を、覗き込もうとしたところを僕は、すかさず陽菜の肩を抱いた。

「ごめんね陽菜、大丈夫だよ、あのことは言わないから」

真鍋は困惑した表情で、僕たちを見ている。

「ごめんなさい、陽菜ちょっと具合悪くなっちゃったみたいだから保健室連れて行きますね」

僕が言うと、真鍋は焦ったような顔をした。

「あ、じゃあ俺も付き添うよ」

「大丈夫です、女同士の方が陽菜も落ち着けると思うんで」

「あ…そ、そうか…ごめん、じゃあ頼んだよ」

ふざけんな。
自分のものみたいな言い方するな。
苛立ちを抑えながら、陽菜を保健室に連れて行った。

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