《MUMEI》

「すみません、寝巻きとはまた折を見て取りに行きたいと思います。」

彼に貸したシャツは鎖骨が覗かせるほど余っていた。スラックスは腰履きになってしまっている。


「明日も稽古があるだろう、おやすみなさい。」

違和感に、ようやく気付いた。瞼がぼってりとして、泣き腫らしたようだ。
隣人と喧嘩でもしたのか、自分が明日にでも荷物を取りに行こう。
社長にも、彼からなるべく目を離さないようにと念を押されていた、妻を亡くしたのだから、マネージャーとしての仕事を全うしよう。


夜中に、彼が明かりも点けずにキッチン周りを徘徊していた。

虚ろな目をしていて、私は彼を歩かせないように腕を掴むと、そのまま寄り掛かってきた。
白い項が現れて、亡くなる数日前の妻を思い出してしまう。

抱きしめて体温を確認すると、彼は私の腰辺りに指を付ける。
鼻先を掠めた首筋から、甘い香がした。

少しだけ、彼が怖くなる。

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