《MUMEI》
放課後に
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授業を終えて放課後になると、憂が声をかけてきた。

「今から職員室へ行かなければならなくなってしまったの。それほど時間はかからないと思うのだけど、先に部室へ行って待っていて貰えるかしら?」

いつも一緒に部室へ向かっているからだろう、憂はわざわざそんなことを告げに来た。昼休みの件もあり、てっきり榊原絡みの話を持ってきたと思い込んでいたので警戒したのだがとんだ肩透かしである。

彼女の申し出に俺は黙って頷く。憂は、それじゃあ後程、と言って俺のもとからさっさと離れていった。

その後ろ姿を目で追いながら、ついでに教室を見回した。帰り支度をするクラスメイト達の中に、榊原の姿がないことに気がつく。もう帰ったのだろうか。


いや、
もしかしたら。


ある可能性に嫌な予感がしたものの、俺はそれを振り切るように鞄を肩にかけるとすぐに教室を出て、生徒達で賑わう廊下を早足で歩きながら部室へ急いだ。



一斉に生徒達の姿が消えた、放課後の静かな校舎。

『怪奇倶楽部』の部室の前に立ち、俺はひとつ深呼吸をした。それからゆっくりドアに近寄り、耳をそば立てる。何の音も気配もない。しかし、それだけではけして安心出来ない。

ドアから一歩後ずさって、ノブを回し一気に開いた。

部室には誰もいなかった。普段使用しているパイプ椅子も壁際に片付けられたままである。クリーム色のカーテンは開きっぱなしで、窓から太陽の日差しが柔らかく注いでいた。


足音を立てないようにして、恐る恐る中へ足を踏み入れ、奥にあるスチール製の事務机に歩み寄る。もう一度深呼吸をしてから意を決して机の下を勢いよく覗き込んだが、そこにはボールペンが転がっているだけだった。いつか憂が無くしたものだろうか。

頭をあげて、ぐるっと視線を部屋中に巡らせる。やはり誰もいない。物が少ないこの部室で、隠れる場所も他にはない。俺はようやく安心する。
先ほど教室に榊原の姿がなかったので、もしかしたら奴が先回りして部室で俺を待ち構えているかもしれないと思ったのだ。



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