《MUMEI》

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しかし今日に限っては違った。
ちっちゃいおじさんは榊原の姿を見るや否や、怯えたように顔を引っ込めて姿を隠してしまったのだ。


…ヤバイ。
9年前より、ずっとセンスが磨かれている。


何も言えずにいると、榊原はおじさんに興味を無くしたのか、急に顔をこちらへ向けた。

「そういや『あの話』のことなんだけど」

『あの話』というのは例のバケモノ退治のことだろう。榊原の話を遮るように俺は首を横に振る。

「断った筈だ、いちいち蒸し返すな」

「話は最後まで聞こうよ、僕はまだ君に全容を伝えていないんだからさ」

「聞くまでもないよ。お前のエゴに巻き込まれるのは二度と御免だ。バケモノ退治だろうが何だろうが、それはお前の仕事だろ?俺の知ったこっちゃない」

バッサリ切り捨てる。決まった。そう思ったが榊原は、ふふっと軽やかな笑い声を唇からこぼす。

―――そして、



「それが、今回ばかりは違うんだなぁ〜」



何かを含ませたやたら勿体ぶった言いようが、図らずも俺の興味を惹いた。

「…何が違うんだよ?」

反射でつい問い返してしまい、慌てて口をつぐむがもう遅い。榊原は満足そうに唇を弓なりに歪めた。

「今回のバケモノはね、ちょーっと状況が厄介なんだ」

どういう意味だろう。図りかねていると、彼は語り始めた。

「ちょうど1ヶ月くらい前かな、旧い知り合いから調伏の依頼があったんだ」

「チョーブク?」

聞き慣れない言葉だ。榊原は頷き返す。

「要するに除霊みたいなものかな。タチの悪い霊がおイタしてるからどーにかしてくれって頼まれてね。父親も叔父貴も別件で出払ってたから僕が担当することになって」

彼はデスクに歩み寄ると、床に転がったままのボールペンを拾い上げる。

「色々調べてみたら、この街に悪霊がうろついてるってことがわかって。だったら灰谷とコンタクトを取った方が動き易いと思ったんだ」

指先でペンを弄びながらそう話した。俺は眉をひそめる。

「…俺がいると何で動き易いんだ?」

素朴な疑問を投げ掛けると榊原は、うーん…とわざとらしく考え込むポーズを取る。


「君のポテンシャルが魅力だったんだよねぇ」



ポテンシャル?



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