《MUMEI》

.


「…何のことだ?」

図りきれず尋ね返すと榊原はニコッと人の良い笑顔を浮かべた。

「霊感だよ。君が疎ましく思っているその完璧なセンスのことだ」

「そんなもん、お前の方がずっと…」

備わっているじゃないか、そう口にする前に。

「そのくせ、ヤツ等に対してやたら無防備でただ付け入られるだけの無能さが僕にはとても魅力的なわけ」

俺の遮りを無視して榊原は勝手に話を続ける。俺は黙るしかなかった。

「君にもわかるだろう?僕は強くなりすぎた…対峙しただけでヤツ等が怯えて逃げてしまうほどに。これじゃ調伏しようにもなかなか難しくてね」

榊原は俺を見つめて微笑んだ。その表情だけ見て取れば、人が良さそうに見えなくはないのだが。

そのあとは、我慢比べのように双方黙り込んでただ見つめ合った。先に口を開けばたちまち相手にイニシアチブを取られることはわかっていたが、俺は猜疑に似た好奇心に勝つことができなかった。

「…俺に何をさせたいんだ?」

小さく尋ねると、榊原は満足そうに薄笑いを浮かべ、ゆっくり答える。


「簡単なことさ、『囮』になって欲しいんだよ」


その返事は、全く俺が予想していたモノではなく一瞬理解ができなかった。


…『囮』?


「どういうことだ?」

訝しい眼差しを向けるが榊原は柔和な笑顔をただ返す。

「そのままの意味だよ。君にはヤツ等を誘き出す、いわばエサの役目を負ってもらう」

エサの役目って。
嫌な想像しかできない。

「それはまた、あんまりな仕事だな」

呆れて毒づくと榊原は、考えようによるね、と否定はしなかった。

「確かにリスクはある。ヤツ等は君みたいに霊感を持っている人間を喰いモノにしようと躍起になってるから、上手く誘き出せたとしてももし調伏に失敗したら、命の保証はできない」

冗談ではない。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫