《MUMEI》

走り出し、何処かへと向かう羽野を近藤は咄嗟に負う事ができなかった
漸く追いかけようとした矢先に、目の前の相手が道を塞ぐかの様に立ちふさがる
相手が動く度、骨がぶつかり合い無機質な音を立てる
「……B・Sを、寄越……」
最早声すらまともに発する事が出来ず
近藤は蔑む様な一瞥を向けると、羽野の後を追う為身を翻した
羽野が向かったのは恐らく、新都市の入口
近藤もそこへと向かい走りながら
だが途中、見えてくる景色に不意に脚を止めていた
脚元に転がる大量の死体
今まではこれ程まで街中が荒れ果てる事はなかった
ヒトをこれ程までに強欲な生き物に変えてしまう
そんなものを、僅かだがそれに携わっていたのだと考えると苛立ちばかりが先に来る
後悔、したかったのだ
だからB.Sが催される度、その結果である羽野を捜した
後悔をすれば、少しでも自身の罪が軽くなる様な気がしたからだ
漸く見つけ、だがしてみた後悔は思った以上に苦しいものだった
何故、こんな事をと
何度してみても、近藤の胸の内に安寧は訪れない
「……何か、聞こえんのか?」
漸く見つける事の出来た羽野は壁に耳を付け座り込んでいた
一体ないをしているのか
問うてみる近藤へ、だが羽野は答える事はなく
重く閉じている筈の新都市への扉を開いて行く
同時に漂ってくるのは人が腐った様な悪臭
呼吸すらまともにできない其処へ
羽野は躊躇なく入っていく
引き留めるには間に合わず、仕方無くその後を追う近藤
久方振りに立ち入ったそこは想像以上に酷い有様
白化により骨と化し、だが未だに絶える事が出来ないでいる大勢の一が皆
地に伏している
見るに居た堪れなくなりつい視線を逸らした
その直後
すぐ傍らで、嫌な水音を近藤は聞く
「嫌ぁ!」
更に聞こえてくる悲鳴に、そちらへと向いて直れば
羽野が腕を押さえ蹲っていた
どうしたのか、同じ様に傍らへと片膝をつき、伺い
押さえている手を退かしてやれば、そこに剥き出しの骨が見えた
「白く、変わる……。恐い……!」
B・Sを失ってしまったからか
白化が羽野の身体まで犯し始めてしまっている
ソレは虫が這う様な感覚で
徐々に徐々に白化が羽野を狂わせていった
「……助、けてぇ。父さ……母さ……」
求める様に伸ばされた手
ソレを引き寄せるかの様に取ってやり、強く抱いてやる
羽野が求める親のソレではないけれど
少しでも代わりになればと、唯それだけを切に想う
「……本っ当、ロクでもないもん造っちまったな」
願いは所詮願い止まり
ソレが現実に叶えられる事がないと解っていながら
それでも
託された命、それを手放す訳にはいかなかった
『……B・S。新しい、石……』
進展の全くないやり取りを羽野と交わす内
いつの間にか周りを白骨に取り囲まれていた
大量に群れをなし、近藤へ、そして羽野へと助けを請う様に手を伸ばしてくる
ヒトとしての石など当になく、唯、欲望、願望の赴くままにB・Sを欲する
誰かを犠牲にしてまで造り上げ立ったのはこんな地獄の様な世界か
そんな筈がない
「秋夜、逃げるぞ!」
何処に逃げようと状況が好転する事はないのだが
兎に角今はここから離れる事が優先の様な気がして
近藤は羽野の手を引くと身を翻す
走って走って
だが何処まで走ろうとも景色は全く変わることは無い
脚元には大量の骨
踏んで走る度、それらの破片が飛び散り近藤達に浅い傷を掘る
「……!」
途中、突然に羽野が脚を止め近藤の腕を引く
何事かと様子を伺えば、その場へと座り込んでしまう
「秋夜?」
一体何を見つけたというのか
座り込んだまま動こうととしない羽野の前へと片膝をついて見れば
覗き込んだその頬に一筋涙が伝った
「……此処に、いる」
「は?」
「……此処に、居た」
肩をしゃくり上げる羽野が両の手に掛け込んだ二つの頭蓋骨
羽野はどうしてかそれをさも大切そうに抱く事をする
その頭蓋骨はもしかしたら羽野の両親なのだろう事を
だがそれが本当にそうなのか、近藤には知る術はない
「……?」
その頭蓋骨を何気なく見てみればその眼の部分に
何かがはまり込んでいる事に近藤は気付く

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