《MUMEI》

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「…その犬神持ちが、何かしでかしてるってのか?」

俺が推測を口にすると、彼は口元を歪めた。まさか、と嘲笑するように言う。

「彼らは今でも身分を隠してひっそり暮らしてるよ。犬神と自分の一族を護るためにね。問題は彼らじゃない」

「じゃあ何だよ?」

焦れったくなった俺は急かすように言った。榊原はゆっくり振り返る。逆光で表情はよく見えないが、内に秘めた怒りに満ちているのは感じ取れた。

しばらく対峙したあと、彼は呟いた。


「無知で愚かな人間だよ」


言っている意味がわからなかった。俺が黙っていると、榊原は溜まった怒りを吐き出すように荒々しくため息をついた。

「好奇心の塊のようなバカな奴が、どこでその情報を手に入れたのかわからないけど、面白半分に犬神を造ったんだ。アレがどれだけ厄介なものかも知らずにね」

「『造った』って…そんなことできるのか?」

「元々犬神は古い呪い(マジナイ)のひとつだからね、造るのは簡単なんだ。センス云々は問題にならない」

榊原は妖しく微笑んだ。

「餓死寸前で打ち落とした犬の首を辻道に埋めて、人間がその頭上を往来することで怨念が宿る…他にも色々あるけど、この謂れが一番オーソドックスかな。今回の件もこの方法で犬神が造り出されてる」

犬の首を切るなど、そんな非人道的なことをする奴が本当にいるのかと疑問を抱いたが、榊原の表情から彼が嘘をついているようには思えない。
それに動物を虐殺する話は昨今ニュースでよく耳にするから、きっと本当なのだろう。想像するだけで気味が悪い。

「そんな悪趣味なモン造ってどうするつもりなんだ…?」

胸に沸いた疑問をそのまま口にすると、榊原は肩をすくめた。

「決まってるだろ、犬神は祟り神だ。呪うためだよ、ターゲットとなる誰かをね」

そうして斟酌なく言い放つ。俺は面食らって言葉をなくした。そのリアクションを見て榊原はケラケラおかしそうに笑う。

「誰をどんな理由で殺そうとして犬神を造り出したのか、僕もそこまでは調査できなかった。もしかしたら、本当にただの悪ふざけだったのかもしれないな…でも、もう調べようがないんだ。何せ造った張本人が死んじゃってるもんで」



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