《MUMEI》

.


思いがけない言葉に、俺は、えっ?と声をあげた。

「死んでる?」

繰り返すと榊原は躊躇いなく頷き返す。

「どうやら初っぱなから犬神に殺されたみたいだね。しょうがないよ、祟り神を操る器もセンスもなかったんだから」

返す言葉が浮かばなかった。
榊原は笑って続ける。

「言っとくけど、犬神が能無しの主に牙を剥くのはよくある話だよ。おおかたヤツの機嫌を損ねることでもしたんじゃないの?全くバカの極みだね、犬神の恐ろしさを知らずに興味本意で造り出すからこんなことになるんだ―――自業自得、因果応報だよ」

そこまで言って窓辺から離れると今度は事務机に近寄り、きちんと整頓されているデスクの上をじっと眺めた。


「主を失った犬神は、そうしてこの世に解き放たれた…無秩序にね」


榊原は柔らかく目を細める。笑っているようにも見えた。

「暴走する犬神は好き勝手に人間を喰らい始めた…『好き勝手』って言ってもちゃっかり選り好みはしてるようだけど。ターゲットとなる人間は女、しかも若くて感受性豊かな10代ばかりをね」

これを見て、とポケットに突っ込んでいた手を引き抜く。その手には写真が数枚握られていた。榊原はゆっくり写真を一枚ずつ机に並べて見せる。どれも若い女の子が写っていた。

「これは?」

「犬神によって消された女の子達だよ」

予想外の言葉に顔をあげて榊原を見た。彼は満足そうに笑い、写真に視線を落とし、その中の一枚を指で差す。凛とした賢しげな瞳を持つ、顔立ちのキレイな少女だった。

「最初の犠牲者はこの子。3週間前の下校中に犬神に殺された…もっとも骨まで残さず喰い尽くされて死体も出てこないから、世間では失踪したことになってるけれど。そんでもって、これがホントの幕開け」



―――『失踪』、

『ホントの幕開け』?



その言葉がやたらと耳に残る。嫌な予感がした。

榊原は俺を見た。そして、微笑む。


「そうだよ、女子失踪事件の犯人は犬神だ」


予想外の言葉に俺は目を見張る。まさかそんな話、容易には信じられない。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫