《MUMEI》
狙われるのは…
.


榊原は写真へ視線を戻し、その一枚一枚を指でなぞるように触れた。

「…犬神が感受性が強い若い人間を狙うのはよく耳にするけど、性別・年齢・容姿ともここまで一致しているのは珍しいパターンだね。たぶん犬神にターゲットの容貌が刷り込まれてるからか、もしくは『味を覚えた』か」

「…味?」

「分かりやすく例えると、妊婦を食べた野生の熊がその後妊婦だけを執拗に襲うような感じかな。一説には熊だけでなく鮫もそういった嗜好があるらしいね、その辺は詳しく知らないけど」

そこまで言って突然、彼は口を閉ざした。不意に訪れた沈黙に困惑しながら俺は再び机の上に並べられた写真を見つめる。写っている女の子達は、デザインは違うがみんな学校の制服を来ていて、黒いロングヘアーだった。皆一様に目鼻立ちも涼やかで整っており、世間で言われるところの美少女の部類に入るだろう。榊原が言った通り、確かに彼女達の容姿はとても似ていた。


そして、

彼女達に似た容姿を持つ人間を、俺はもうひとり知っている―――


「いい加減わかるっしょ?僕が君にしつこく依頼した理由」



軽薄な抑揚の榊原の声に、俺はゆっくり顔をあげた。彼は満面の笑顔を浮かべていた。その表情だけで、彼が何を言おうとしているのかはよくわかった。


そう、

被害にあった女の子は、



憂によく似ている…。



「神林さんが犬神に狙われる可能性はゼロじゃない」



俺が何も答えないのを良いことに、彼は喋り続けた。

「すぐにってワケじゃないだろうけど、このまま犬神を放っておけば遅かれ早かれ彼女が狙われるのはほぼ間違いないだろう。もしも、犬神と鉢合わせするようなことがあれば間違いなく彼女は殺される。素人が祟り神相手に抵抗できる筈ないからね」

何も言葉が出てこない。言い返せない。



―――憂が、死ぬかもしれない?



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