《MUMEI》 ……………………………… 「行ってきゃ〜す。」 「行ってらっしゃい!!後でお母さんたちも行くからねッ!!」 「あ〜。」 家を飛び出す関谷。 いつものカバンが、 いつも以上に大事に抱えられる。 決して綺麗とは言い難い、 何度も何度も修理を重ねたユニフォーム。 限界が近いのにも関わらずこれ以上ない程自分に馴染む靴。 汗で色が変わってしまった経験値抜群のリストバンド。 何一つとして真新しい輝きを見せる武器はなかったが、 関谷にとってはそれが最強の装備品だった。 (やべぇ…) 鼓動は早くも加速していた。 (緊張…いや、それもあんだろうけど…) 興奮…せずにはいられなかった。 数時間後、 頂点に立つ自分の姿を想像してしまうと。 「うおぉぉぉぉぉッ!!!!!」 早朝にも関わらず声を挙げ走りだす関谷。 「朝っぱらからうるせぇんだよ。」 「んッ…!!」 十字路を真っ直ぐ突っ切った関谷。 声に反応し振り返る。 後ろの曲がり角から見えたのはジャージ姿の若い男。 「良平?」 「大会の日の朝ってのはそんな気持ちになったような記憶もあるけど。」 葉山良平。 関谷たちと共に陸上部を去った1人。 「おま…何で?」 「はぁ?」 「俺に会いに来たのか?」 「バカ。キモいわ。 俺のランニングコース。」 「ランニングってお前…」 「…部活は辞めたけど、走ること辞めたわけじゃね〜よ。 言っとくけど、 お前らがハンド部入る前からずっと走ってからな俺。」 「そうなんか…」 「高校の部活のリタイアは早かったけど、だからって大学でやっちゃダメって話にはなんないだろうし。」 「そか…良かった。」 「人の心配してんじゃね〜よ。 特に今日に関しては、 そんな余裕があるようには思えね〜けど?」 「ま…な。」 「…勝てよ。ちゃんと応援行くから。」 「おぅよ。」 「日高にも言っとけ。」 「わ〜かってる。」 「んじゃ…な。」 「おぅ。応援よろしく。」 「…了解。」 ……………………………… 前へ |次へ |
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