《MUMEI》
捕獲
 

  
トイレに入ると、ひとつだけ個室が閉まっていた。

「陽菜?」

閉まった個室を見て、すぐに陽菜だと確信したけど、一応名前を呼んでみた。
けど閉まった個室からは、応答はない。

「陽菜?いないの?」

もう一度問いかけてから暫く待って、隣の個室の便器に上り、閉められた個室を覗くと案の定、陽菜がいた。


僕に気付いてないのか、陽菜は警戒した様子で、ドアに耳を当てている。

「…陽菜?」

声を掛けると、陽菜は僕の方を見上げてから、単純な構造の鍵を何度もガチャガチャ鳴らして、個室から飛び出した。


逃げ出した陽菜を急いで追うと、陽菜はトイレの入り口で佐伯に捕まっていた。

「で?どうしたらいいの?コレ…」

佐伯がニヤニヤ笑った。

「とりあえず…僕の家で遊ぼうか」

「…!?ゃ…やだっ!!やだ!!うわぁああぁあ……ッ!?」

騒ごうとした陽菜の口を、佐伯の手が塞いだ。

「久し振りに俺とも遊べよ」

佐伯に言われた陽菜は、なにかを訴えるような目で、僕を見ている。

「懐かしいでしょ?僕も佐伯くんに会えるなんて思ってなかったんだ…昔みたいじゃない?」

「…ッ!!……ッ!!!」

陽菜はなにか言ってるみたいだったけど、佐伯に口を塞がれて声になってなかった。

「僕の家でゆっくり遊ぼう」

「……──ッ!!!」

「陽菜がいい子にしてたら違う遊びも考えてあげるから」

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