《MUMEI》
おかえり
僕と佐伯は陽菜が逃げ出したり騒いだりしないように、家に連れて帰った。

家に入る前に逃げ出そうとした陽菜の髪を、佐伯が掴んだときはゾクゾクした。



陽菜も僕に、助けを求めるんだ…。
そう感じる瞳で、僕を見たから。






家に入ると佐伯は、ベッドに座り、僕が机の椅子に座ると陽菜は申し訳なさそうに、僕の隣に正座した。

「今森こっち座れよ」

佐伯が言った。
陽菜は困惑した表情で僕を見てから、首を振った。

「あ?」

佐伯がすごんだ。

「陽菜、行ってきな」

僕が言ったけど、陽菜は首を振った。

「陽菜、命令だよ」

“命令”という言葉に、陽菜がピクッと反応する。

「ふふっ、早く行ってきな」

「……ゃだ…」

「命令に逆らうの?」

僕が言うと、陽菜が涙を堪えたような声で言った。

「眞季以外の人はダメなんでしょ!?」

「ははっ、今森も泣くんだな」

「泣いてないっ!」

笑う佐伯に、陽菜が強い口調で言った。

「じゃあ泣かしてやるから来いよ」

「やだっ!」

「陽菜、命令は命令だよ」

僕が言うと陽菜は観念したように、のろのろと佐伯の隣に座った。

「オマエ変わったな」

佐伯が陽菜の肩を抱いた。
陽菜は佐伯から、顔を背けている。

「昔みたいに俺に生意気な口利いてみろよ」

黙ったままの陽菜を鼻で笑うと、佐伯が僕に聞いた。

「なにしてもいいの?」

「あ、その前にそこの手錠に繋いで」

僕がベッドのパイプに繋がったままの手錠を指差すと、佐伯は暴れる陽菜を簡単に手錠で繋いだ。

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