《MUMEI》 一日目B〜夏希〜「走るぞ、如月。」 二人は走り出す。が、少しして風帆が足を抑えてうずくまった。 「おい、大丈夫か?」 「触んな!!」 如月を起こそうとした夏希の右手を風帆は左手で払った。 「・・・。はあ。歩けねぇんだろ?」 「うるさい。いいから、私なんてほっといていきなさいよ。でないとあんた、ほんとに死ぬわよ!!」 「他人の心配できんならまだ救いようがあんな。」 そういって夏希はしゃがみ、風帆に背中を向けた。 「おぶされよ。」 「やだ。んなことするわけないでしょ。」 「じゃあ。」 「じゃあ?」 「俺もここを動かない。」 「はあ?あんた、何言ってんの?死にたいわけ?」 「人を見捨てるくらいなら死んだ方がマシだ。」 「なっ。バ、バカじゃ無いの?どうしてそんな・・・。そんなに人のために動けるわけ?私はいいから、行きなさいよ。」 「お前が俺を死なせたく無いのなら、お前も生きろ。」 「・・・。わ、分かったわよ!!」 風帆は夏希におぶさった。 「そんじゃ、行くぞ。」 夏希は走り出した。 ドッコーン 後ろで大きな音がして、振り返った。 見ると、津波が陸地に到達し、ビルをなぎ倒してこちらに向かっていた。 「くそっ。どっか高い建物は・・・。あった!!オフィスビルだ!!」 夏希は入る速度をあげ、オフィスビルに飛び込んだ。 「エレベーター・・・は、無理か。階段!」 階段を見つけ、勢い良く駆け上がる。 すぐ下で水の音がして、それに続き、車が壁に衝突したかのような轟音が鳴り響いた。 ーオフィスビル5Fー 「はあはあはあ。」 夏希と風帆は座り混んだ。下ではガラスが割れる音や壁に何かが衝突する音が響いている。 「なんとか・・・、助かったみたいだな。」 「・・・。」 「はあ。なんでそこまで俺、嫌われてるわけ?」 「嫌いなものは嫌いなの。」 「あっそ。ったく、助けてやったのに・・・。」 「誰も助けてなんて頼んでないわよ。何?お礼でも言って欲しいわけ?」 「別にいいけどさ・・・。」 「ふん。」 「それよりお前、足の怪我。少しでも処置した方がいいんじゃねえのか?」 「あんたには関係ないでしょ?」 「なんだかな〜。もう勝手にしてくれや。」 指で頭を掻く。 夏希は立ち上がりその部屋を出た。 「・・・。はあ。(また、私の周りから人が消えてく・・・。)」 風帆は思った。 性格のせいか、いつも風帆はひとりぼっちだった。最初はモデルをやっていると知って、興味を持ってくる子もいたが、その人もすぐに離れていった。 『如月さんって感じ悪いよね〜。』 『なんか自分が王女様だとでも思ってんじゃない。』 そんな会話を何度も耳にした。そのたびに、人知れず、悲しんだ。 「私はいつも、ひとりぼっちだ。」 風帆はそう、つぶやいた。 前へ |次へ |
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