《MUMEI》
二日目A〜夏希〜
「うわ〜、マジでふさがってんな・・・。」
「どうするの?」
「ん〜。どうするか・・・。ダイナマイトでもありゃいいんだけどな。」
「そんなものあるわけないでしょ。」
「だよなぁ〜。・・・。そうだ!」
いきなり夏希が走り出した。
「ちょっ、どこ行くの?」
「炊事室!」
五分くらいして夏希はいろいろなものを抱えて戻ってきた。
「下がってろ。」
夏希が言った。
「なにする気?」
「まあ、見てなって。」
夏希は無邪気な笑顔をして見せる。まるでイタズラをする前の子供のように。
夏希はいくつものカセットコンロに穴をあけた。
ガスくさい匂いが漂う。
そして、夏希は夏帆とともに部屋を出て、マッチに火を付けそれを部屋の中に投げ込んだ。
同時にドッゴーンという轟音が響いた。
「よし、行くぞ」
二人が再度室内に入ると、道を塞いでいた瓦礫などが木っ端微塵に吹っ飛んでいた。
「ガスにマッチの火を引火させた?」
「そういうこと」
夏希は笑顔で頷いた。
・・・
「よし、急ぐぞ。もう地震発生から20分。あと30分もしないうちに津波が来る」
「分かってるわよ」
二人は小走りに進み出した。
道路の水はほとんどひいており、今は二人の膝上くらいの深さだ。
歩けないことはない。
だが、怪我をしている風帆にとっては相当きつく、100mも行かないうちに立ち止まってしまっていた。
「大丈夫か?」
「うる...さい!ハァハァ」
強気の言葉とは裏腹に風帆の息は荒い。
「ここまで5分...。ダメだな、普通に行くんじゃ間に合わない」
「...夏希って言ったっけ?」
「え?」
「あんたの名前」
「あ、ああ」
「私をおいて行きなさい」
「何言ってんだよ」
「本気で言ってる。あんたが死のうが私は知ったことじゃない。けど、足でまといになるのはわたしのプライドが許さない」
「...プライドって言うけどさ、プライドがあるとなんなの?」
「え?」
「それは本当に必要な物なのか?
夏希の質問に風帆は顔をそらす。
「まだ、助からないと決まったわけじゃない。諦めちゃダメだ。可能性がある限り俺は諦めない」
言いながら、夏希は風帆の手を取る。
ビクンと彼女の手は揺れたが、夏希の手を振り払いはしなかった。
「行こう。時間がない」
二人は再び歩み始める。
「潔く死ぬのと、足掻きながら生に縋るの、どっちが大切なんだろうな...」
少しして夏希はそう呟いたのだった。

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