《MUMEI》
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数日前
陽平のクラスに、転校生がやって来た。
黒板に記された白線たちは確かに、《岸田 零汰》という形で隊列を組んでいる
教師が生き生きとした表情で紹介するその人物を横目でチラリと見た陽平は、
(やっぱり…)
珍しく正面に顔を向けた。
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これはまた、数日前
「…」
陽平は、外車の後部座席から話しかけてきた誰かを見た。
(見たことないヤツだな…)
その人物が自分と同じ歳程の少年である(だろうという)ことを認めると、陽平は普段は切れ長で《キツい》とも思われがちな眼を、少し丸くした。
ホッとしたように、車内の少年は頭を下げる。
陽に焼けすぎた屋外運動部の様な髪の細さや色とは対称的に、その顔…肌は白かった
「突然、すみません。僕は昨日この近所に越してきました、零汰です」
「はい」
車の方向に向き直りながら、陽平は零汰の話を聞く。
同時に自分が彼を、《観察している》ことに気付かれないように、細心の注意を払いながら。
「あの…S高校の場所は、ご存じですか?」
(S高校…)
知らないわけが無い。陽平は《自分が今来た道》を振り向き、指差した。
「この道を道なりに進んで、最初の交差点を左。その後……」
説明をしながら、陽平は横目で零汰を窺った。
零汰は陽平が話すとそれに重ねるように、運転席の誰かに向かって日本のものでは無い言語を話していた。
車の窓にはスモークが貼られているため、運転席の様子は窺い知れなかったが。
(この言葉…ロシアか…)
説明をしながら、陽平は思った。
(どうりで、日本人特有のアクセントと濁りが無いわけだ…)
「……あとは、その橋を渡れば見えてきます。」
陽平が零汰に向き直っても、少しの間零汰は運転席に話していた。最後に小さく頷くと、零汰も陽平に向き直った。
「ありがとうございました。」
「…いえいえ」
陽平は走り去る黒の外車を肩越しに見ながら、
(嫌な予感がするな…)
指で頬を掻いた。
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かくしてこの転校生が、突然《被加害者》になったわけである。
「おーい…零汰…」
陽平が零汰の背を擦(さす)り続けていると
「…はっ!」
「うわ!」
ばっ、と。
零汰が顔を上げた。
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