《MUMEI》
青仙邦〜異変T〜
「もうすぐ一週間か…。」

 官邸の執務室の一室での呟き。

 背中の中程まで流している黒髪は艶やかで、男性でありながら白く、滑らかできめ細かい肌は、今は少し青白く見える。

「朱華様、少しお休みください。薬剤が届くのは明日。それまで我々には何もできることはないのですから。今は体を休め、備えることが必定と存じます。」

 窓の外、町をじっと見つめ続ける男はこの地の領主・朱華。話しかけたもう一人の男を笙貴(しょうき)といった。金色の短髪に眼鏡をかけた理知的な雰囲気の男である。

「この地を統治し始めてから八十年。あまりにもうまくいきすぎたつけがここにきて、現れてしまったということなのか。はたまた、これもまた、陛下の…」
「朱華様!」

 笙貴の諫める声を受け、朱華は、はっと目を見張る。一瞬の沈黙のあと、自らを嘲るような微笑が秀麗な顔に浮かび、窓の外から笙貴へと、視線を移した。


「すまん。泣き言を言った。」

「いいえ、仕方なきこと。」
 僅かに目元を緩ませ、またすぐに表情を引き締めた彼は、いつも朱華をよく補佐してきた副官である。


「悔やまれるのは、こういうときに役立つ魔術学校の創立と、神殿の医術院の拡充を遅らせたことことだな。」

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