《MUMEI》 取って見れば、それは黒い石 ソレがB・Sの原石の一つだと気付いたのはすぐで まるで出来たばかりのソレの様に艶やかな黒 何故こんなモノが此処にあるのか ソレも近藤には分かる筈もない だが、今だけは都合よく考えてもいいかもしれない これは、羽野がこうなってしまう事を予測しあの二人が仕込んでいたモノだ、と 「……秋夜」 名前を呼んでやりながら、未だ肩を揺らすばかりの羽野の腕をまた引く 力の抜けている身体はふわり軽く近藤の腕の中 顎へと手を添え、羽野の顔を上向かせたかと思えばB・Sを口に含み そのまま羽野の唇を覆っていた 「……っ」 吐き出す事が出来ない様、飲み込むまでそのまま 漸く嚥下したのを確認すると唇を離してやる その身体が瞬間ビクリと大きく痙攣を起こし 眼を限界まで見開き近藤の方を見やる 震える指先が伸ばされ、その手を近藤は唯握り返してやるばかりだ 「……恐、い。頭の中が、白と、黒でぐちゃぐちゃになっていく――!」 ソレが怖くて仕方がないのだと喉を掻きむ擦り始める 呑みこんでしまった異物をまるで吐き出そうとするかの様に 更には口の中に指すら突っ込みえづく 見ていて居た堪れない行為 その手を徐に掴み上げる事をすると、近藤は力任せに羽野をその場へと押し倒していた 「……もう少し、辛抱しろ」 近藤が顔を間近に言い迫ってやれば 羽野の耳に届く事はなく、まるで幼子の様に嫌々をする B・Sによる白化の進行停止 だがその作用が強すぎるのか、羽野はひどく怖がりもがき始め 近藤は、しかし拘束を解いてやろうとはしない しろ、黒、混ざり合う果ては灰の色 ソレが、本来人が持つべき半端な彩 「……助、けろよ。オッさん」 秋夜そのものの口調でのソレが聞こえ、そちらを向いてやる 久方振りに羽野の視線が重なり、求めるかの様に羽野が手を伸ばしてくる その手を引き寄せ、強く抱きしめてやればまた首を横へ 近藤の耳元へと唇を寄せると 「……俺を、殺し、て」 「!?」 助けろと言いながらも自らを殺せと乞う その真意は一体どちらかを解りかねる近藤 怪訝な表情を返してやれば 羽野が近藤の手を取り、自らの首へと導いた 「……痛、い。苦しい……、助けて」 近藤の手に自身の手を重ね、力を加えて行く 加減も最早解らないのか、本気で自身を殺めてしまいそうなほど強く 「結局、B・Sって何なんだよ。唯、人殺すだけのゲームって事かよ……」 ロクでもない、と震える声での悪態 確かに、そうなのかもしれない 所詮ヒトは誰かの、何かの犠牲なしには生きてなどいけない ソレが如何なる状況下であっても ヒトはそこで生きて行くしかない 「要ら、ねぇよ。B・Sも、この新都市っていう場所も!」 全部無くなってしまえばいい、との叫び 近藤の腕を振り払う、羽野は逃げる様に身を翻し走り出す その脚が強く土を蹴りつけた、次の瞬間 突然に地面が脆く崩れ、そこに巨大な空洞が現れた 「……何なんだよ、コイツは」 落ち掛けた羽野を咄嗟に支えてやりながらその顔を覗き込んでみれば 其処に見えたモノに、近藤は言葉を失った 「……コイツは――」 見えたのは、地中深くに埋まる巨大な黒い石 ソレが一体何なのか 気になた近藤は羽野を小脇に抱えたまま近くへと降りてみる 膝を折り、手を触れさせてみれば、随分となじんだ感触 ソレがB・Sなのだと近藤はすぐに気付く 白化の影響は最早人だけには留まらず この新都市全体に広がっているのだと 「……いっそ、壊れりゃいい」 既にほとんどが壊れてしまっているのだ 全て壊れてしまった方が潔がいいだろうと 壊してやる為に使えるモノはないかと一度上へと戻る 羽野の手を強く掴んだまま、探しに辺りを闇雲に歩き回り 暫く歩いて、そしてその道中に都合よく一丁の拳銃が落ちているのを見つけた 型が随分と古いリボルバー それでも無いよりはましだ、とたまが六発全て込められているのを確認するとそれを持って戻る そして一発、また一発 打ちこんでやる度、すでに脆くなっているのか、簡単に罅が入る 最後の、一発 たまが発砲されると同時、銃が暴発し その爆発が白化した近藤の左腕を粉々に砕いてしまっていた 同時に硬質的な音を立てながら木端に砕けて行くB・S 前へ |次へ |
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