《MUMEI》
握手
「……は?」
うっかり間抜けな声を出してしまった。
しかし、凜は真面目な表情で羽田を見ている。
羽田はレッカの姿を眺めてみた。
変わった所はない。
制服は羽田の中学の指定制服。
少し、髪の毛が赤い気がするが、特に目立つほどではない。
彼は目をクリクリさせて、なぜか興味深げに羽田を見ている。
「ちなみに、レッカの立場から言うと先生は存在してません」
「……だよな」
レッカは腕を組んで頷いた。
どうやら彼には凜の言っていることがわかっているらしい。
「どういうこと?」
堪らず羽田が聞くと、凜は少し考えるように目を閉じ、次に羽田を見た。
「手っ取り早い方法です。先生、レッカに触って見てください」
「え?」
聞き返す羽田に凜は頷き返す。
そしてレッカに言う。
「手を」
「あ?ああ」
レッカは羽田に向けて右手を突き出した。
羽田も右手を出して、握手するようにその手を握った……つもりだった。
「……?」
羽田が握ったはずのレッカの手の感触がない。
確かに握手をしている。
それなのに、自分の手の感覚しかないのだ。
羽田と同じように感じたのか、レッカも不思議そうに自分の手を見つめている。
「先生とレッカはお互いに存在していない」
凜は静かに言った。
「つまり?」
羽田は手を離した。
「別次元の存在、ということです」
「……さっき言ってた、別の世界?彼がそこに生きる人?」
凜は頷いた。
「お互いにです。レッカから見れば、先生が別世界の人間。先生から見ればレッカが別世界の人間」
羽田は凜とレッカの顔を見比べた。
凜はいつものように涼しい顔、レッカはしきりに頷き、一人で納得している。
二人ともふざけた感はない。
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