《MUMEI》
一、昔話
 二つに束ねられた黒髪に色素の薄い眉。伏し目がちの横顔の彼女を見たとき、私の身体に電流が走ったような衝撃が起こった。

 そして、走馬灯のように過去の映像が頭に流れてくる。

 「凜ちゃん! 来てくれたんだ」

あやめちゃんは色素の薄い眉を下げて、柔らかい微笑みを浮かべた。あれは、たぶん、発表会の日だった。

「うん。あやめちゃん、かっこよかった」

 あやめちゃんはよく笑う優しい女の子だった。少なくとも、私の記憶でのあやめちゃんは、鮮やかなままだ。

 だから、窓側の一番前の席に座る女の子が記憶の中のあやめちゃんの特徴とぴったり一致していても、それがあやめちゃんだとは信じがたかった。しわのない制服で真面目そうな眼鏡をかけて、一人でひっそりと分厚い本を読む姿なんて想像ができなかった。

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