《MUMEI》

 きっと、気のせいだ。私はそう信じることにした。

 「凜、どうしたの」

声が聞こえた方に目をやると、つり目のボブ頭が映った。光が当たって髪が茶色に見えるけど、もう生え際は黒い。

 「何にもないよ」
「ふーん。真剣な顔で何を見てたわけ?」

和佳の観察力には私も適わない。

 「髪の毛プリンになってきたね」

私が嫌みを込めて上から彼女の頭をぽんぽんと叩くと、上目遣いで睨まれてしまった。

「今日美容院行ってくるもん」
「そ。いってらっしゃい。で、彼に用事は済んだの?」

 彼女は目を泳がせ髪を掻く。

「まぁ、済んだよ」

そんな彼女の仕草が可愛らしくて、つい、

「別に私のこと気にしないでいちゃいちゃしてれば良かったのに」

と、また彼女の頭をぽんぽんと叩いてピンク色の頬をもっと膨らまさせてしまった。

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