《MUMEI》

 私たちが教室に戻るとちょうどチャイムが鳴り、午後の時間の始まりを知らせた。

 担任が教壇の上に立った。外では蝉が鳴いていて夏真っ盛りだというのに、短髪の先生は汗一つかいていない。それどころか、万年黒のブレザーを羽織っている。正直、いるだけで暑苦しい。

 「今日の放課後に委員会の集まりがあります。――平間さんは、四時から図書室です」
「はーい」

和佳は後ろに振り向いた。頼みたいことがあるとでも言うような悩ましげな顔で。

 「凜、お願い。今日の委員会あたしの代わりに出てくれない?」
「そういえば今日美容院行くんだっけ?」
「そうなの! だから、お願いっ」

手を会わせて上目遣いをされては適わない。

「仕方ないな。私を使うのは高いからね」

私がそう言うと和佳は怪訝そうな顔をして身体を前に向けた。少しくらい笑ってくれないのだろうか。

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