《MUMEI》

 「あ」

今日のお昼休みに四組で見かけた、あやめちゃんに似ていた子だった。彼女は誰とも目を合わせようとせず、頬杖をついて人のいないところを眺めている。

 「――全員出席ですね。今日は貸し出しカードの整理と本の整理を行ってください」

先生がそう言うとそれぞれ動き出したが、私には何をすればいいか全くわからない。先生は気を使ってくれて丁寧にやり方を教えてくれたけれど、私の頭には入ってこなかった。

 倉橋あやめちゃんは一人で奥の本の整理をしていた。なんとなく本のジャンルのところに目を向けると、私は思わず声を上げてしまいそうになり慌てて両手で口をふさいだ。

 彼女は一人で音楽の専門コーナーの整理をしていたのだ。これはあやめちゃんの決定的な証拠となり、あやめちゃんが昔と変わってないことも表していた。

 彼女は今でもピアノが好きなのだろうか――。

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