《MUMEI》 「凜。昨日、ありがとうね」 翌日、和佳は開口一番にそう言った。 「大丈夫。そんなことより、和佳、倉橋あやめちゃんのこと知ってたの?」 和佳は目を丸くしてぱちぱちとまばたきした。さすがにいきなりすぎたかもしれないと思ったけれど、和佳は笑顔を返してくれた。 「倉橋さんだよね。知ってたよ」 「そっか。話したことある?」 「そこまでは、ないかな。凜、あの人と知り合いなの?」 質問責めしすぎたために、さすがに和佳も不思議そうな顔をしていた。 「ん。昔、ちょっとね」 和佳になんて言うべきなのか、私には伝える術がわからなかった。 「言いづらいこと?」 私はどきりとして和佳を見た。いつもと同じ優しい顔をしていたけれど、やっぱりこんな隠し事をして怪しまれたのかもしれない。 前へ |次へ |
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