《MUMEI》
好かれる理由
 
 
その日、俺は蓮が一目惚れした女が気になって、なかなか眠れなかった。

ホストに来る女なんて、だいたいがキャバ嬢とか風俗嬢とか…そんな類の女ばっかで、俺たちからしたら見慣れた種類の女だし、奴らの性格の悪さだって痛い程わかってる。
綺麗に見えたって、作り物が多いし精神の病んだメンヘラばっか。

そんな女相手にするなら、学生とかOLとか…素朴な可愛さの女相手してる方が、全然ラクなのに、ホストで痛い目見て夜の世界から逃げ出せた奴が、なんでわざわざキャバ嬢なんか…。

そう考えると、相手の女が益々気になった。

しかも、修正されまくった写真で一目惚れとか…ありえないだろ、と。

「…悪ぃ、寝てた?」

明日は初日だし寝てるだろうと思ったけど、好奇心に負けた俺は蓮に電話した。
てっきり眠そうな声で電話に出ると思ったけど蓮は、普通に電話に出た。

「起きてたのかよ」

「いやいや!電話しといてなんスか、それ」

「明日初日だし寝てると思ったからさ」

「いや…緊張しちゃって」

苦笑を浮かべた蓮の表情が、頭に浮かんだ。

「いや、緊張しすぎだろ」

そう笑ってから俺は、本題に入った。

「あのさ、おまえの一目惚れの相手は名前なんて言うの?」

「なんスか?急に」

「いや、おまえが写真だけで本気になっちゃう女ってどんなかなって気になり出したら寝れなくてさ」

「なんスか、それ…」

「ただの好奇心だけど」

「…う〜ん」

蓮は少し迷ってるようだった。

「なに?なんか教えたらまずい理由でもあんの?」

蓮は気まずそうに、「いや…」と言ってから続けた。

「先輩…好きになんないでくださいよ?」

蓮の心配そうな声に、思わず笑った。

「なんねぇよ、夜の仕事してる女ムリだし。てか、そんな心配なら俺バイト断ろうか?」

「いやいや!それはダメですよ、先輩いなかったら俺話せませんから!」

蓮と話してると、蓮が年上の女とかキャストたちに好かれる理由が、なんとなくわかる。
年下の面倒見るのなんてダルいとか思ってる俺も、例外じゃないな、と。

「じゃあ名前教えろよ」

俺が言うと蓮は口ごもりながら、「アキです」と言った。

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