《MUMEI》

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「っ…」

陽平は固く眼を閉じた。刷り込まれる快楽を、拒絶するかのように。



(何でだ…何でこんな事に…ッ!)


両頬を包まれて、陽平は眼を閉じたまま顔を逸らした。


「抵抗しないで下さい…」

寂しげな声に、陽平は思わず顔を戻して薄目を開けた。



「っ…」



見えたのは、前髪が掛かるくらいに自分に顔を近付けて、



「壊しますよ?グチャグチャに。」


不敵な笑みを浮かべた零汰だった。

零汰の顔が近付く。



「……ぁ…」


(マジ、で…ヤられる…?!)



陽平は、背筋に今まで感じたことの無いような悪寒を感じ、再び目を固く閉じた。




常に《完璧》を保つ努力をしてきた陽平は、それが恐怖だと悟ることにさ時間を要した。







「…っん……?」

予想外の柔らかなキスに、陽平は拍子抜けにも近い感覚を感じた。

ユルユルと遠慮がちに侵入して来る舌も、どこかもどかしい。









しかしすぐに(そんなことは思わなければよかった)と後悔した。


「ぁ…何しっ…!」



「分からないんですか?馬鹿だね」


また陽平の首筋に強く吸い付いて、零汰は嘲笑った。



「ば…ッ…?!」


冗談でも《馬鹿》とは言われたことの無い〈小学校時の戯れでのものは別だ〉陽平は顔をしかめる。



(俺が…馬鹿……)




「…アンタは馬鹿だよ」


それを察したように、零汰は言った。陽平にではなく、目の前にある陽平の首筋に語りかけるように。


「アンタが悪いんだ」

「だからなにを…ッ!」

「少し黙ってくれませんか」



五月蠅い、というように零汰の手が陽平の胸板の装飾を捻りあげる。

痛みに、陽平は息をつまらせた。

必然的に言葉も中断する結果になったのは、考えずとも分かる話だ。




「アンタが優しすぎるから…」

「……っあ…」



言葉一つ一つが胸を経て心臓に、

そして心臓から全身に行き渡ることを望んでいるように、零汰は先程とは打って変わってやわやわと、陽平の胸を愛でた。


「…やめ……よっ…」

そのギャップに、陽平の躰は勘違いし始める。






気持ち良い、と







(んなとこ、感じるわけっ…!)





絶対に勘違いだ!




と、《本人は》思っていた。

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