《MUMEI》

 「昔の、知り合いなんだ」

私がそう呟くと、和佳は意外そうな表情でこちらを見た。

「私が小さい頃に少しの間だけ通ってたピアノ教室で、あやめちゃんと一緒だったの」
「凜がピアノ弾くんだ」

 和佳の予想通りの反応に私は苦笑する。

「そう。仲良かったんだけど、中二の時に音信不通になっちゃって」
「そうだったんだ。なんだ、別に言いづらいことじゃないじゃん」

 和佳のほっとした笑顔に胸がちくりと痛む。和佳に本当のことを言うべきなのだろうか。

 でも……、言いたくない。

「なんて言えばいいかわからなかっただけだよ」

そして、私は精一杯の作り笑顔を向けた。私の頭の中は和佳に対しての罪悪感で支配されていた。

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