《MUMEI》

徐々に、新都市の至る所が白く変化を始める
「……何で?」
ヒトが白化で朽ち果てて行くかの様に
新都市全体が白く、崩れて逝く
その問いに対する答えを求めるかの様に近藤の方を仰ぎ見る羽野
だが近藤は答えて返す事はせず
羽野の身体を軽々肩の上へと担ぎ上げると、そのまま踵を返した
「オッさ……」
帰る道中、震える声が微かに聞こえ
近藤がそちらを僅か向いてやれば、涙に歪んだ羽野の横顔が見える
思う事が様々あるのだろう
近藤は羽野の身体を改めて腕へと抱え直し、自身の肩へと羽野の顔を埋めてやった
「泣くなり、寝るなり好きにしろ」
「……何、だよ。その選択肢」
突然のソレに困惑する羽野
このどちらともが今の羽野には必要だと、そう考えたが故の提示
暫くの間の後、その意図を汲み取ったらしい羽野の肩が小刻みに揺れ始める
泣く事を選んだらしい、と
砕け、見るに痛々しくなってしまった左腕で何とか背を宥めてやった
次の瞬間
新都市を形成していた建物が次々と瓦解を始め
立ち止まってしまった近藤はソレを無感情で眺め見る
だがすぐに耳元から聞こえてくる羽野の荒い呼気に
今は羽野を休ませてやる方が先だとまた足早に歩き始めた
何とか中心街まで戻ってみれば
「B・S、廃止になるんだってさ。アンタ、知ってた?」
思わぬ情報を得る事が出来た
さっきの今で随分と早い手回しだと内心毒づきながら
だが素知らぬ振りで首を横へと振って見せる
どうしてなのか、その理由を知っているかと問うて返せば
相手は大袈裟に両の手を上げて見せ、解らないを返してくる
「何か、ついさっき突然決まったみたいでさ。携帯の方にメールが来てたんだよ」
ほら、と見せられたメールには確かにその旨が書いてあって
恐らくは新都市が全て白化し、これ以上は何の意味も成さないと察したのだろう
早々に手を引いたその手際に懸命な判断だ、と近藤は肩を揺らし
情報提供してくれた相手へは礼を言って返しまた歩き出す
「……あそこ、どうなるんだ?」
羽野からの、徐な問い
白化を始めたあの場所・新都市が辿る先は衰退の末の消滅
最早気に掛ける事など無意味でしかなく
近藤は唯首を横へと振ってやるだけ
全て、終わるのだ、と
「……そか」
納得したのか、していないのか
羽野はそれ以上聞こうとはせず、また近藤の肩口へと顔を埋める
暫くして聞こえてきたのは寝息
漸く寝たのか、と顔を覗きこませてやればその寝顔は幼子の様なソレで
あどけないその寝顔に、近藤は肩を揺らした
「……本当、でかくなったな」
自身が助けようともがいた命
ソレがいま、ちゃんと目の前にある事が素直に嬉しかった
「俺も、年取ったって事かね……」
つい感慨に浸ってしまっていた自身に精神的な置いを感じながら
近藤は今日の寝床を、と
何所か身を休ませる事が出来そうな場所を探すため
その場を後にしたのだった……

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