《MUMEI》
二、過去の彼
 「和佳、今日部活休みなんだっけ」

蝉は今まで以上に増えて、いよいよ夏真っ盛りという時期になった。

「休みだよ」
「じゃあ、一緒に帰らない?」

 すると、和佳は気まずそうに頭を掻いた。

「ごめんね。今日はちょっと」
「そっか。彼とデート?」
「まぁ」

 和佳の頬はほんのり桃色になる。この頬を見ると私はどうもからかりたくなってしまう。

「それなら、デートだって最初から言ってくれればいいのに」
「いいじゃん」

和佳はそう言ってそっぽを向いた。すると、間を置かずに教室の扉が開かれた。

 「平間」

低い声が私の耳にも届く。

「リュウ」

和佳の嬉しそうな声が聞こえた。

 「ごめんね、待った?」
「いや、全然。大丈夫」
「そう。良かった」

完全に二人の世界になる彼ら。少しだけ寂しいし、和佳の相手があいつっていうのも少しだけ気に入らない。

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