《MUMEI》
だってこんな有名な奴がなんで俺？って感じで。
結構女遊びが派手なのも有名な三村が男で、しかも何かと平凡な男の俺？って感じで。
どうせすぐに飽きるだろう、ちょっといつもと違うものを食いたくなっただけなんだろう。
別に好きな奴もいなかったし、少し付き合ってみても構わない位だったのに。
ヤバイ。
ちょっと可愛いだなんて思ってる俺がいる。
俺よりもちょっと身長高くて、筋肉質でどう見たっていい男の三村を可愛いだなんて…。
三村と揃いで買ったドリンクはほとんど俺の口に入る事はなかった。
映画もほとんど頭に入らなかった。
▽
「中沢って休みの日何してんだ？」
「んー、だいたい家事てつかなー、あ、俺んち車の修理やだからそっちの手伝いな」
「ふーん、だからいっつも手荒れてんの？」
「え？…、まあ、うん…」
手についたオイルの汚れを落とすのに有機溶剤で落としているから、俺の手は艶がなくてガサガサしている。冬場なんか特にアカギレで酷かったりで。
今まで接点のなかった三村が俺の手の事を知っていただなんて…、ちょっとびっくりした。
「三村は休みの日…」
思わず同じ質問を返そうとして、でも途中で俺は辞めた。
だって、きっと集会とかだろうから、その話を聞いていいのかどうか迷ったから。
「…、…中沢」
「ん？」
不安げに俺を見つめてくる。
こんな表情も学校じゃ見た事なかった。
いつも強気で、誰かれ構わず睨みつけているイメージしかなかったから。
「俺、中沢の好みになりたい、だから、俺が休みの日、俺は何をしてればいーのか中沢に決めて欲しい」
公園の中の騒音が、一瞬にして、消えた…。
あんまりにも真っすぐに、真剣に、切なげに見つめられて。
軽い気持ちとか、単純な好奇心で三村と一緒にはいちゃいけないんだって悟った。
本気で三村は俺に惚れていて、俺のために髪まで黒くしたんだって今やっと分かって。
突然奮えだした三村を、俺は堪らなく愛しく感じて…
抱きしめずにはいられなかった。
「じゃあ半分手伝ってくれる？…そしたら一緒にいれる時間増えるし…」
「…、〜…、ぅん…」
自然に唇が重なり合って。
離れてもまた重なって。
誰かに見られるとかそんなの微塵も気にならない位俺は三村に夢中になった。
俺は恋に堕ちた。
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