《MUMEI》 「それで稔や。母親とは話は着いたのかね」 同日、夕方の恋神神社 母親の元から帰ってきた安堂 普段通り、境内の掃き掃除に勤しんでいると祖父がゆるり問うてきた 掃除する手はそのままに、安堂は小さく頷いて返す 「お母さん、少し寂しそうだった。でも私は……」 悪い事をしてしまったのでは、という罪悪感と それでも今の生活を手放したくはないという気持ち その安堂の胸の内を感じ取ったのか 祖父は穏やかに笑むと安堂の頭を撫でてやる 「稔はまだ若い。今は自分の気持に素直で居てもいいと爺ちゃんは思うぞ」 大人になると、中々そう出来ない事の方が多いのだから、との祖父へ 安堂は背を押して貰った気になる 自分の気持に素直に安堂は唐突に身を翻すと社務所へと走り出し 以前、三原から貰った恋絵馬を取って出す ソコヘと書き込む、初めての想い (恋神様)としてではなく、安堂 稔として恋絵馬に託していた そうこうしていると、石階段を上ってくる足音が聞こえ、三原の姿が見える 安堂の姿を見つけ、微笑んでやりながら手を振る三原へ 安堂は待ち切れず、小走りに掛け寄り、そして その勢いのまま三原の腕の中へと飛び込んでいた 今、この瞬間だけ、精一杯の勇気を、と 「……倖君!大好きです!!」 取り繕う事のない素直な言葉 瞬間、虚を突かれた三原だったが、すぐに安堂の身体を抱き返してやり 軽々と抱え上げてやる 身長差がなくなり、正面に向かいあった顔 真っ赤に鳴った安堂の頬へと触れるだけのキスを一つ 「俺の、恋人になってくれますか?恋神様」 ソレが、三原からの答え 通じ合った想いに、安堂の眼から大粒の涙がこぼれ出し 頬を伝っていくソレを拭ってくれる三原の手に安堵する 恋神様が初めて願った自らの恋 ソレをかなえてくれたかもしれない恋絵馬に感謝しながら 包み込んでくれる三原の腕に、安堂は身を委ねたのだった…… 前へ |
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