《MUMEI》

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「あ…ぅ…」



(おかしい…何で…)



陽平は零汰を観察する余裕も無いほど、いろいろな意味で焦っていた。


(何で…誰もいないんだ…!)




胸を這う舌の感覚は、もはやジンジンと疼き下腹に降りていく



紛れも無い<あの感覚>になっていた。











最悪の場合、助けを呼べばいいと思っていた。


<この状況を見られる>というリスクもあるが、優等生で人気もある陽平が、自分は被害者であると説明すれば、何とかなる。



それに、自分なら最近やってきた転校生よりも信用は厚いはず。





そう、思っていた。











また零汰の舌が、胸の突起を掠める。



「ぅ…やめ……っ」


すかさず零汰が唇で陽平のそれをふさぐ。


「…煩いですね…そのセリフは5か…っ!!」



腹に膝蹴りを入れられ、零汰の呼吸が止まる。





陽平の、苦し紛れの反撃だった。

同時に思考を巡らすための時間稼ぎでもあったが、



「っ…やり、ましたね…」


零汰が予想外に早く立ちなおしたために、後者の意味は成さなかった。


「…!」

零汰の手が、陽平の顎を乱暴につかみ、自分に向かいあわせる。



「…言いましたよね?『壊しますよ』と。」



恐怖に顔をを引き攣らせる陽平とは反対に、

前髪から覗く零汰の表情には、今まさに獲物の首を食いちぎろうとする獣…



否、<捕食者さえも喰らおう>というような、猟奇的な笑みが浮かんでいた。






「お望みどおりに、壊してあげます。久藤 陽平くん…僕好みにね」


「…いや…だ……ッ!」



「…殺してあげてもいいね…。」


「い…やだ……!」



(何もかも、嫌だ…!何で…何でこんな事に……!!)





陽平は両手で顔を覆った。

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