《MUMEI》

一呼吸ついて、体を落ち着かせる。



――――来る。

右だ、
予想通りに枝を掠って、釘が過ぎてゆく。


奴は足ばかり狙って来る、動きを封じて確実に仕留めたいのだろう。

とりあえずは、森に逃げよう。


「ハイドアンドシークぅ!うん、得意だ。」

氷室千守が悲鳴にも似た歓喜の声で、ガシャガシャとエアタッカーが、叢に打ち込まれてゆく。中々勘が良くて、俺の行く先々に発射されていた。

「みーつけたあ!」

釘が何度か貫通してゆく。


最低だ。
もっとムードのあるいたぶられ方をしたかった!


「……ダミー」

着ていた服を脱ぎ、氷室千守へ投げ付け、そちらに気を逸らした隙に突進する。


奴の背中に馬乗りになる形で身動きを取れなくした。


「やっぱり弟とはいっても、氷室様の足元にも及ばないんだな……」

流石に掌に穴を空けて来るとは思わなかったけど。


「退け。」

冷淡な眼差しで一瞬で体中が強張る。
いつの間にかスタンガンを手にしていた。


「……あんっ」

放電してゆく余韻に、身をよじってしまう。
スタンガンを何度も打たれた。皮膚から異臭がする度に高揚していた。

「最低!最悪!ああもう!」

千守が、泣いている……?
情緒不安定かよ。
サディストの風上にも置けないな。

スタンガンの電流を使わずに、角を使って殴られた。
超痛い。
超最高。
脳髄までシビレル……

「もっとぉ……」

この痛み大好き。
千守が鬼みたいな怒りの権化となった泣き顔で殴る。口の中は錆びた味がした。

「ハッ、ヒッデェ面……」

吐き捨てた千守にそのまま返してやりたい。
鼻水垂らして、どっちがだよ。

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