《MUMEI》

 日も傾き、暮れる夕暮れに段々と伸びる影
音もなく広がっていくその黒に、だが段々とざわめく声が混じっていく
ヒトのソレの様でまるで違う、雑音の様な声
そのざわめきが、今日も人の世界を闇へと染め変えて行く……


「影はヒトを決して許さない。ね、そうでしょう?影早」
住宅街から離れたとある一角、そこに佇む一軒の古めかしい日本家屋
夕闇に染まっていく空を眺めていた和装の女性が屋敷の奥の方へと向いて直る
其処には着物の帯紐を首に巻かれ、柱へと括りつけられている人物が一人
だが抵抗するそぶりは見せず、唯従順に其処に在った
だが不意にその人物は女性の肩越しに見える外へと意識を向ける
「どうか、した?」
珍しいその様子に女性もそちらへと向いて見れば
「……ヒトの、匂と影の気配だ」
「あら。こんな時間にこの屋敷の周りをうろつくなんて。一体、誰なのかしら」
「俺が、見てくる」
「珍しい。気になるの?」
揶揄う様に笑む事をしながら女性は柔らかな仕草で戒めを外してやり
乱れていた着衣を整えてやる
「いいわ。行っていらっしゃい。但し、殺してはダメ、いい?」
「何故?」
解らない、と小首を傾げる相手・影早
女性は僅かばかり困った風な笑みを浮かべてみせながら
「……ヒトが、人を殺める事は、許されない。貴方は、元は人だから」
「だから、駄目なのか?」
「ええ。もしあなたがこの禁忌を犯してしまったら、私は貴方を殺さなければならなくなる」
それは嫌だから、と女性は影早の髪を緩く梳いてやりながら
何度も言って聞かしてやる
解った、と頷く事をすると、影早は音もなく其処から姿を消していた
「……そう。影は常にヒトと共に在るのだから」
その背を見送りながら女性は笑みを浮かべると
身を寛げ、ゆるりと眼を閉じたのだった……

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