《MUMEI》 1この街は何かが違う感じがする。ソレが、第一印象だった カメラのファインダー越しに僅かな違和感を感じながら だがその違和感が一体何なのか分からないまま、市原 八雲は風景を写真へと収めて行く 一枚、また一枚と撮っていく度その違和感は増していくばかりで 市原はシャッターを切る事を、やめていた 何かが、居る気がする 気配の様なものを僅かに感じ、辺りを見回してみるが何もなく 「八雲?どうかしたか?」 連れ立ってきていた仲間の声で我へと返り 何でもないを一言返す 「そか。じゃ、今日はこれ位にしてホテルに帰ろうぜ。俺、疲れた〜」 「そう、だな」 気の所為だと、市原もまた踵を返した ゆるり歩き始めながら、だが市原はまた感じる違和感が気に掛る これは一体何なのか 何も見る事は出来ない方へとファインダーを向け、シャッターを切ってみた 次の瞬間 すぐ傍らで大量の水が降り落ちたような音 何事かと確認するより先に 市原へ大量に黒いな水の様な何かが降ってきた 「や、八雲!?」 何処から降ってきたソレか 辺りを見回してみた市原の視界の隅に 唯佇むばかりの人影が見える 市原と眼が合うなり、その人影の口元が歪んだ笑みに孤を描いて そして、人影が動いた 「……人を殺してはいけないって、言った。だから、俺は殺さない。お前が、こいつを殺す」 言うや否や、人影が迫り寄ったのは市原ではなく 背後からその身体を拘束されてしまった仲間は当然もがく事を始める 「な、何なんだよ。こいつ!?」 「……お前は、影になる」 うろたえる仲間を意にも介さず 暫くすると、辺り一面に黒い霧が徐々に漂い始めた ソレと同時に響きわたったのは、耳に痛い程の悲鳴 嫌な水音を立てつぶされた内臓 その皮膚は無残にも切り裂かれ、剥き出しにされたそれらが嫌な臭いを漂わせる 目の前の惨状に、漸く身動きが取れる様になった市原はその傍へ 無造作に土の上へと放り出された相手はまだ僅かばかり息がある様で 身体を小刻みに震わせていた 「た、すけ……。八雲……!」 言葉の通り助けを求めるかの様に伸ばされた手 その手が見る間に影に覆われ 縋ろうとした手は、別の意図を持ち市原の首へと伸びる 「おまっ……。何して……!」 このままでは首を絞められる 瞬間的にそう察した市原だったが 逃げるより先に、首を掴まれてしまう 「……っ!」 段々と圧迫されていく気道 首の骨が軋む音が頭に直接響き、そして折れる音 激痛を感じて一瞬、意識が途切れた 項垂れてしまった市原の姿を見、 一体どちらから恐怖を感じているのか、相方が叫ぶ声を上げる 「……殺してはダメ。影早」 その相方すら手に掛けようとする影早の前へ 唐突に別の人影が現れる 地に伏してしまった市原を暫く眺め見 そして首筋へと手を添える 「……殺して、しまった。あれ程、言ったのに」 「……俺は、殺してしまった?」 「アナタじゃない。殺してしまったのは、あの子。」 憂いを帯びた表情を浮かべ、相方だった影の方をその人物は見やった そして市原の首筋へと手を添えて寄りながら脈をとれば やはりそれは感じられない 「……逝きなさい。貴方には、やって貰わなければならない事がある」 前方を指差し、影へその方へと向かう様促してやれば その影は動く事を始めていた ソレを見送ると、改めて市原の方を見やり 「……影早、これは殺しては駄目。これには、影守に、なって貰わないと」 「影、守?何それ?」 「私達を、守る駒。この男にはその素質がある」 「そう、なのか?」 解らない様子の影早へ 少女は僅かに笑みを口元へと浮かべながら 「……影早。これは、アナタにあげるわ。好きなように、使いなさい」 「……要らない?何故?」 「私には、必要ないから。だから、あなたが使って」 地に伏していた市原を少女とは思えない力で抱え上げ そして影早へと放り投げる 「……あなたの影で、染め上げるといいわ」 色香漂う笑みを口元に浮かべると、少女はその姿を影へと潜めた その背を見送ると影早は市原を見下ろし そしてその傍らへと膝を折る 「……俺の、影守」 相変わらず無表情、そして無感情のまま だが影早は市原へと縋る様に手を伸ばす 首筋へと触れ、喉仏へと指を這わせそのまま胸元へ 前へ |次へ |
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