《MUMEI》

「じゃあ、俺《おれ》も出かけるよ。ごちそうさま」

ゆっくりと席を立ち、支度を始める父親。

オレは食パンをかじりながら、何となくテレビを見ていると、誰かの視線を感じ、後ろを向いた瞬間――
 

「――っ!」


――驚きで息が止まった。

先程《さきほど》まで支度をしていたであろう父親が、今まで見せたこともない表情でこっちを見ていたのだ。

オレは思わず視線を逸《そ》らし、顔を背《そむ》けてしまった。なんだよ、一体……。

恐怖すら感じる父親の表情。

思い当たる節は……ない。

台所で洗い物をしている母親に視線をやり、もしかしたら、母さんを見ているのかもしれない……いや、それでもあんな表情はないだろ!?

などと自問自答《じもんじとう》しながらも、恐る恐る父親に視線を戻す。

やはり、父さんが見ているのはオレで間違いないようだ。なんだってんだよ!

なんでオレを見ているのか……、恐怖とは別の感情が沸々《ふつふつ》と湧《わ》き上がるのを抑えつつ、ワケを訊《き》こうとした時――

向こうから一歩、また一歩と近づいてきた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫