《MUMEI》 だが、その表情は一変《いっぺん》、不安そうに顔を曇《くも》らせ、 「気を付けるんだぞ!」 低く、しかし力強く、一言だけオレに言った。 呆気《あっけ》にとられ「あ、あぁ」とだけ答えるのが精一杯なオレを尻目《しりめ》に、父さんは「いってきます」とだけ言い、早々《はやばや》と仕事に出かけてしまった。 そんな一部始終を見ていたのか、母さんは「もう……、お父さんは心配性なんだから」などと言っている。 「そ、そうかなぁ?」 「そうよ、お父さんは心配してるわ」 いや、いやいやいや、そんなんじゃなかったよアレは! 一人、心の中で母親に抗議《こうぎ》する。 「それはそうと、アンタもそろそろ学校いかないとダメでしょ?」 あぁ、そうだったと、残りの食パンと牛乳を胃袋に収《おさ》め「ごちそうさま」と席を立つ。 用意してくれていた弁当をバッグに入れ、玄関に向かう。 「栄司《えいじ》のお弁当も持っていく?」 母親はマヌケな弟の弁当入り巾着を、これ見よがしにブラつかせている。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |