《MUMEI》 「ん? あぁ、そうだな。いらねぇ」 「そう? じゃあ入れとくわね」 「なんでだよ」 やれやれ、毎回こんな調子だからなぁ。 「そうだ、昨日言ったと思うけど、お父さんとお母さんは――」 「分かってるって。今日の夜から土・日使って小旅行だろ? メシとかはオレ達でなんとかするから、心配ないよ」 「そうね。二人のことだから心配はしてないけど……」 言い淀《よど》む母親の顔色が悪いような気がして、 「母さん、具合悪いのか?」 心配になり、尋《たず》ねてみると、 「えっ!? そんなことないわ。大丈夫よ」 慌てて何かを隠すように笑顔を向けてくる。 いつもと違う母親の様子に疑問を懐《いだ》きつつも、本人が大丈夫だと言ってるんだから、これ以上追及しても意味は無いかもしれない。 「そっか……。じゃあ、いってくるよ。母さん」 「いってらっしゃい。敬太《けいた》、気を付けてね」 バッグを肩にかけ、玄関のドアを開けると、春にしては少々冷たい風が頬《ほお》を撫《な》でる。 さあ、いくか! ――高校生活の長い一日が、今日も始まる。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |