《MUMEI》

女の子は自転車に乗ったまま、何か話しかけてきている。

が、全《まった》く耳に入ってこない。

オレの脳内では、今朝見た事故のニュースと、たった今、轢《ひ》かれかけたという恐怖がぐるぐると廻《まわ》っている。

「ちょっと、聞いてんの!? ボーッとしてんじゃないわよ!」

「――っ!?」

耳元で大声を出されていた。

「ご、ごめんな……さい」

鼓膜《こまく》が破れそうに痛み、顔をしかめながらも、何とか返事ができた。パニクった頭も徐々に落ち着きを取り戻してきている……が、この女、初対面なのに口が悪い。

ついでに言うと態度もデカイ。

彼女は怒っているためか、顔が紅潮《こうちょう》し、全身を強張《こわば》らせているように見えるが――


――思わず見とれてしまう。


カワイイ……。

目はパッチリ二重に長い睫毛《まつげ》。鼻筋の通ったキレイな鼻。唇は花のつぼみを想わせるように小さく、血色の良さそうな色だ。

髪は輝くような黒で、真っ直ぐ背中まで伸びている。

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