《MUMEI》

「えぇ。じゃあ、またアトでね」

それだけ言うと、彼女は自転車に乗って、さっさと行ってしまう。

……去りゆく彼女の姿をしばらくの間、ぼんやりと眺《なが》めていた。

何気に腕時計を見ると、八時十五分をまわっていた。のんびりしている時間は既《すで》になかったのだ。

再び通学路を歩き出すが……あれっ? またアトで?


――下駄箱でスリッパに履き替え、二階の教室に向かう。


食品化学科・二年


ここが自分の教室。いつ見ても代わり映えしない空間だが、当然といえば当然か。来るたびに変わってたら、それはそれで不気味だしな。

教室に入るとオレ以外、全員いるようだ。時間的にも遅刻ギリギリだったが、なんとか間に合った。

「おっはよー! 局長《きょくちょう》! 今日は遅いじゃん」

背後からオレの肩をポンと叩く茶髪の男・高橋充《たかはしみつる》、クラスメイトでオレの友人。

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