《MUMEI》

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「…ぁうァ、あ…っあ…あ…」



閉じているはずの唇は無意識のうちに快楽を逃がそうと、息が声を乗せて出ていくことを許してしまう。



「…そ、れ…や、ァっ!…」



口淫されることは、初めてだった。女性に告白されても決して付き合おうとしない陽平は


…言ってしまえば、


「もしかして、陽平くん…童貞ですか?」



零汰が楽しげに顔を上げる。


名残惜しそうに陽平の先端に舌を這わせながら、である



「…随分と余裕が無いんですね。意外です………ああ」



掛け時計を見た零汰は、眉間に皺を寄せた。しかしその口元は、今だ楽しげに持ち上がっている。




「残念…タイムリミットです。続きはまた今度にしましょう」


零汰は身体を起こし、何事も無かったかのように自分のはだけた制服を整えた。



「…はァ…っは…は……誰、がっ…!」


(誰が続きなんか…!)



陽平は唇を噛んだ。

急に襲われて、脅迫されて、こんな半端な状態で止められて


疑問と悔しさと情けなさとを、噛み締めるように。





そして〈まだ快楽にしがみついていたい〉という心の片隅にあった存在してはいけない慾を、噛み潰すかの様に。





「良い子ですから、僕以外に貴方を傷つけさせないで下さい。傷ついた理由が貴方自身でも、許しません。」



「何を、い…」


またも言葉は零汰の唇に吸い込まれた。



「僕は前から…ッ…」



突然零汰の肩が跳ねる



「!」

零汰は数回瞬きをし、ようやく陽平に眼を移した。

〈眼を移した〉と言うより、〈たった今、陽平の存在に気付いた〉という表現の方が近い表情だった。



「よ…陽平くん…」



「〜っ…」


ムリヤリヤられるのも嫌だ、しかし〈自分が被害者であると、一瞬でも忘れてしまいかねない〉この状況も、不都合だ。


そして一瞬でも快感に溺れたいと願った、〈馬鹿〉の肌を見て欲しくはなかった。



顔を背けていると、唐突に手首の束縛を解かれた。

(なんで…)



痛む手首を気にしながら、なんとか服を戻し、手をついて起き上がった陽平の胸に、零汰は顔を埋めた。


「…な…!」




「ごめん、陽平くん…ごめん…」



悲痛なその声に、陽平は零汰を引きはがせずにいた。

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