《MUMEI》

オレが来たのを確認すると、彼女は周りにいた数人の男どもを押し退け、目の前に立った。

「遅いっ!」

いきなりそれかよ。

周りにいた男どもの「なんだ? コイツ」とか「俺《おれ》の方が全然イケてるだろ!」みたいな視線が、紫外線のように容赦なく降り注《そそ》ぎ、皮膚が痛んできそうだ。

「ワタシがアンタを呼び出してから、どれだけ待ったと思ってんの!? 今朝は今朝で人の話はウンタラカンタラ――……」

アトはもう何を言っているのか聞きとることができない。さながらマシンガンだな。

――弾が切れた頃には、周りにいた男どもの姿は(キレイサッパリ)なくなっていた。

見た目に騙され、ナンパでもしていたであろう輩《やから》も、オレと同じ気持ちになったに違いない。と、一人ほくそ笑《え》んでいた。

「ねぇ」

――ギクリと、オレの心臓が跳ね上がる。

次に何を言われるのか身構えていると、

「二階の窓から見てるあの二人。アンタの友達かなんか?」

彼女は怪訝《けげん》そうな表情になり、眼だけで方向を指し示す。

つられて二階を見ると、充《みつる》と裕紀《ゆうき》が慌てて隠れるのが見えた。

野次馬どもが。

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