《MUMEI》

「バイクはわかんだけど車はこれからで…」

「慣れっすよ、こんなのは」

男はにっと笑って軍手を外した。

まだ若そうで、だけど頼りがいのある雰囲気。
ちょっと伸び気味の黒髪。
目は大きいけど一重瞼。
ちょっと控えめなイケメンって感じの顔ってとこか。


「あの、三村瑛なんだけど…」


もしかしたらこいつが三村の恋人かと思い、俺は言った…その時。


「瑛ちゃん何やってんだよーっ!終わっちゃったぞお?」

「誰のせいだよ〜ッ!腹壊して大変で……あ……」


走り寄ってきた三村は俺の顔を見るなり固まった。


「プラグの交換教えてあげるチャンスだったんだけど…、ま、後はよろしくな、このお客さん瑛ちゃんの知り合いみたいだし」

男は俺に軽く会釈して、三村の肩を叩くとガレージに戻っていった。


「あっ!一哉っ!」

突然三村は泣きそうに顔を崩して


「バカッ!なんで来んだよッ!おまえなんかと誤解されたら最悪じゃんかっ!」


「はあ?誤解って意味が…、うわっ?」



あの、あの…、みんなに恐れられている三村が…!





一粒の涙で頬を濡らした後、男を一目散に追い掛け…



後ろから抱きついた。


ちょっとの言葉のやり取りの後、男は三村の髪を撫で、俺の視界から二人は消えた。




びっくりした。
びっくりしたけど、



ちょっと、三村が惚れた理由が分かった気がした。







End

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