《MUMEI》
2
理想と現実、とはよく言ったものではあるが必ずしも理想と現実が対を成す存在であるというわけではない。
理想を追いかけ実現した者もいれば、志半ばで挫折し、理想が理想のままで終わった者もいる。
要は理想を叶える難しさ、そこに尽きるのであろう。
もっとも、志す理想が無い者が多いのも一つの現実ではあるが。
いや、多い、というよりもほとんどと言ったほうが良いかもしれない。
現に今、この教室という限られた世界にいる人々からは何も感じるものがない。
狭い世界、更には偏見が含まれるが、皆自覚はあるのだろう。あるからこそ、諦めている。それが当たり前だと錯覚してしまう。
何も他人に限ったことではない。自分もまたそうであるから。

教室内にはいつにも増して教授の虚しい声が響いていた。
机に突っ伏して声を聞き流す。
「おい、シロ!喫煙所行こうぜ。」
大学内ではほとんどこの呼び名で呼ばれている。白井祐(しらい ゆう)苗字に「白」が入っているためにシロと呼ばれているのだがなんだか猫っぽい。最初は違和感ありありだったがさすがにもう慣れた。
聞きなれた声のほうを振り返る。
短髪で、髪を茶色に染めた、体つきの良い男子生徒、綾瀬明(あやせ あきら)、声の主はこいつだ。
「綾瀬、いつの間に来たんだ?全く気が付かなかった、、、五十嵐と真中は?」
「あいつらはもう先に行ってるよ。俺も出席とりに来ただけだし」
いつもの日常、いつもの会話、そしていつもの場所へ。

教室を後にするとき教授と目があったが、一瞬のことであり、教授はその後何事もなかったかのように、誰を相手にするでもなく授業を進めていた。
生徒も教授も、たぶん他人には興味がないのだろう。無関心を決め込んで。干渉することを拒むように。
なんとなく虚しさを感じながら、綾瀬と二人でいつもの喫煙所へ向かった。

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