《MUMEI》

「充分楽しんだろう?これだけの酔漢を異形に変えたのだからな」
 地に伏した異形共は既に塵と化しつつある。
 ジャランッ
 放たれた鋼が酔鬼に飛ばされて、それならばと彼岸が跳躍する。身体を丸め込み喉元を蹴りつけるが、鬼の腕に振り払われて、彼岸の体勢が崩れた。
 鬼に捕らえられて、その腕で首を締め上げられる。
 もがくが、びくともしない。…‥しばらく。
 キン、と鉄と鉄が弾かれたような音がする。同時に旋回した杖が鬼の腕を斬りつけた。
「遊んでいるからだろ。さっさと片付けちまいな」
 元は錫杖らしい鉄棒の先刃に鈍い光を反射させて、着流し姿の青年が佇んでいる。この男、他の者は逃げ去っているというのに、呑気に酒を先程まで楽しんでいた。
 怒る酔鬼が彼岸を放り出し、男に突進している。
「あんたの相手は俺じゃあないよ」 
 ほら、と顎で示して男は鬼から逃げもせず、動かない。受け身を取った彼岸が再び跳躍し、自身の片手を一閃する。男に迫る酔鬼の首が一瞬静止して留まり、ゆっくりとずれて落ちた。


 異形を彼岸に導く渡し、その傍らには蓮という名の正体不明の男が必ずいた。 渡しの名は彼岸。
 共に、異形の畏怖する存在としてあるという。


       終幕

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