《MUMEI》

「えーと、井下《いのした》さん。もっと詳しく言ってもらえるかな? それだけじゃ、ちょっとね……」

彼女は困惑したような表情になり、

「詳しくは、まだ言えないけど……。ある場所まで来て欲しい」

「詳しく言えないって……」

彼女は一体、オレに何をやらせようとしてるんだ?

全《まった》く見当がつかないし、説明もないんじゃ、こっちも応えることはできない。

「あれっ? 和美《かずみ》?」

――思わず声のする方を見る。

ウチの学校の女子生徒が井下さんに気付いたのか、声をかけてきたようだ。彼女もゆっくりと振り返る。


「やっぱり和美だ! えーっ! どうしたの!? 事故ってヤバイ状態って聞いてたけど、平気そうじゃん!」

「……」

「あっ! もしかして私、騙された? くやしーっ! 誰だよデマ流したヤツ!」

女子生徒の問いかけに、彼女は何も答えようとしない。

事故がデマで……なんだって?

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