《MUMEI》



私は結局、髪を全て剃り落とした。次の化学療法は更に抜けるって聞いたから…。

それに毎朝抜け落ちた髪を見ながら落ち込むよりその方が気持ちもさっぱりする気がしたから。


明日からまた化学療法が始まる。次は辛い副作用が出るかもしれない。


私は中庭を今日はゆっくりと歩いている。

時々天を仰いでは陽射しを感じたりして。
もしかしたら当分外には出られないかもって思うと私はしつこく行ったり来たりを繰り返して。



「こんちわ〜」


「…、こんにちは」

あの、男の子が私の方に向かって歩いてくる。


私の正面に立った男の子は、私よりも頭一つ分大きくて、ちょっと痩せっぽちな子だった。




「ふーん、明日から第二弾なんだ?」

「そう、これでいい結果が出たら手術するんだ」

なんか気さくな感じがして、私はぺらぺらと病状を彼に話た。


「頑張ってな」


そう言って彼は凄く、凄く、太陽みたいな笑顔になった。



「…なにが頑張ってだよ…、なんも…、私が辛い気持ちなんかわかんない癖に…」


こんな風に簡単に笑える、気楽な立場の彼に私は一瞬で怒りを感じた。



「…、ごめん、だけどさ!」

私はベンチから立ち上がり彼を見下ろしながら


「私は癌だからあんたみたいにお洒落する気持ちの余裕も!ほら!眉だって書くゆとりさえない!しかも帽子の中は坊主なの!解る?解んないでしょ?お洒落で帽子被ってるあんたと私じゃ立場が全然違うんだからッ!」

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