《MUMEI》
3
「おいおい二人ともおせーぞ!」
威勢の良い声。これは真中幸喜(まなか こうき)の声。名前の通りいつもテンションが高く幸せそうにしている。良いことだ。
「まあ二人より先に喫煙所来てる俺らのほうがクズだけどな!」
そういって真中と二人で笑う人物は五十嵐慧(いがらし さとる)。真中の次にお調子者ではあるが、こいつの洞察力はすごい。結構いろんなことに気が付く。
このお調子者コンビ、授業にも出ずにずっとここにいたのか・・・てかこいつら授業自体取ってんのかすら疑問だ。
「おいシロ!失礼なこと言うな、もちろん取ってるぜ・・・。もう単位落としたがな!!」
がはははと笑う真中。
「え、まじで?俺も!」
仲間を見つけてはしゃぐ五十嵐。
駄目だ。手に負えない。
少々呆れつつタバコに火をつける。
「シロ、見放さないでやってくれよ」
笑いながら綾瀬が煙で遊んでいる。
「見放すことはしない。見てて面白いし、こいつらが単位落とすの」
「堂々と酷いこと言うねシロ」
「まあ、俺も綾瀬も人のことばかり気にしてられない状況だけどな。出席日数とか」
「うおお、考えたくねえ、、」
綾瀬と二人で笑いあう。真中と五十嵐は・・・なんか奇妙なポーズをとって遊んでいるから放っとくことにする。
とはいえ、なんだかんだこいつらが大学内での数少ない友人であり、腹を割って話し合える奴らなのである。
知り合いは多いが友人は少ない、というのは少しおかしいだろうか。まあ人見知りというより、多くの人と話すのが面倒なのだ。
こんなことを言うと今流行りの厨○病なんじゃないかと疑われるかもしれないが、それならそれで良いかと思う。
このどうしようもなく下らない不毛な時間が、今はたまらなく心地よい。
今朝は煩わしかった快晴に、少しだけありがたみを感じるのだった。
「そろそろ帰らねえ?今日はもう授業ないっしょ?」
いつの間にやら遊び終わったらしい真中と五十嵐が、自分の荷物を掲げて帰ろうとしていた。
いや、まだ授業あるっつーの
「シロ、まだ授業あんだっけ?」
「んー、ある。さすがにもう休めないな」
「良いじゃないか!俺達と一緒に来年再履修すれば!お前もダークサイドに堕ちてこい!」
なんて奴らだ。自分達の仲間を増やそうとしてやがる。
さすがに先程出席日数が云々と言っていたばかりで休むのは、なんというか、自分の中の良心が許さない。
まあ、確かに・・・
「休みたいのは山々なんだが、まだダークサイドに堕ちる気はせん。お前らは来年頑張れよ」
と言って、軽く鼻で笑ってやった。
「なんだよー、シロは真面目なんだか不真面目なんだかよく分からねーな」
腕を組み首をかしげる真中、真面目で不真面目ってやつだよ、きっと
「まあしょうがないか、んじゃまた明日な!」
ひらひらと片手を振る五十嵐、しょうがないってなんだよおい
「んじゃ、お疲れさん」
二人に続く綾瀬、お前もお疲れさん
三人が軽く手を振り喫煙所から出ていく

いつもの景色、いつもの別れ、いつもの三人
この過程が日常で
この空気が必要で
こういう居場所がなければ生きていけないなんて、大げさなことはないけれど
きっと、多分、息苦しくはなるんじゃないだろうか
孤独は寂し過ぎる
耐えられる人などいないであろう

胸ポケットの中に入れてあった、小さな袋をとりだす
袋には大きく「守」の文字
少し不格好でがたがたしている、お守りだ
大切なもの
幼少期に、ある人からもらった、本当に大切なもの
もうその人の顔は覚えてないけれど
とても綺麗な女性だったことは覚えている
あの人は今どうしているだろうか
どこにいるのだろうか
また会えるのなら、あの時言えなかったことを、ちゃんと自分の口で伝えたい。
それに、あの人は、まだ

孤独なのだろうか

お守りを胸ポケットへしまう
大切に、大切に
そろそろ授業が終わる時間帯だ
次の授業の準備をしなくてはいけない
億劫だな・・・
足取りは重く
しかし授業に対する態度は軽く
吸殻をしっかりと捨ててから喫煙所を後にした

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